10月12日 本年19号の超大型で猛烈な台風が東京を通過した 
 関東を通過した過去最強クラスの最大風速45m/秒にも達する強烈な台風であった

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 台風の目の中に入っている時の気圧計の針の位置にスパイ針▲印 を合わせる この 960hPa まで下降した気圧計の針は台風の目を抜け出るとまた昇り始めるが この最下降位置▲印 は記録としてこの位置に残す
 (後日撮影したこの位置にあるスパイ針の写真)





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 日常のある日の気圧計 針は 1029hPa を指している
 (気圧計は正しい気圧を示す位置に針の位置を補正する作業が時折必要である 現況の針の位置に多少のhPaの数値の誤差があるかもしれない)
(下は温度計 湿度計)


 
 20時を過ぎていたであろうか TVの台風情報を見ながらそろそろその中心が東京に近くなってきているな などと思い 980hPaと刻まれた目盛の さらなる先の目盛の刻まれてもいない位置にまで徐々に下降してきているbarometer(気圧計)の針の最下点まで降りる位置はどこになるのか を確認するため 何度もスパイ針 ▲ を 下降してゆく気圧計の針の位置に合わせて変えてゆく作業を繰り返していたこと そして真暗な窓の外を眺めて 強風と激しく吹き付ける雨の騒々しい音に不安を覚えたりしていたことを思い出す

 そしてTVのアナウンサーが繰り返す「命を守る備えを!」の呼びかけに 鉄筋コンクリート造りの我が家の中という安心感こそあるはずなのだが これまでに無いような強烈な風そして豪雨の中に 今 己れはそこに存在しているのだなという不安の実感を持ち始めていた

 やがて徐々に降下してきていたbarometerの針が960hPaのところでまったく動かなくなっていることに気がつく この位置のhPaの数値は この気圧計の 平常時の高い気圧の位置に刻まれた目盛との間隔から推し量り この数値であろうと推測した960hPaであった

 そして この時こそが 音を立てて吹き付ける強風も そしてガラス窓に叩きつける雨も 一瞬にしてばったり止んだ 静寂の世界 が訪れてきた始まりだったのだ 

  台風の目の中 に入ったのだ と 半信半疑で真暗な窓の外を見る そこには所々の家に明かりがぽつんとついている 風もほとんど吹かない 気持ち悪いくらいの静寂の暗い世界 があった

 台風の目 の中にあって これ以上は下降しなくなった気圧計の針が示す位置を記憶させるべく この位置 にスパイ針の▲印を合わせ 今度は上昇を始めるであろう その時 に備えて観察を続ける

 とても長く感じられるこの静寂の時間 これでこのまま台風が収束してしまうはずはない これは 台風の目の中 そしてこの 台風の目の中の空間 も自転車並みのスピードで北北東に向かって移動しているのだ と思うと その 移動を続ける不思議な静寂の空間の中 に今まさにそこに静止する己れが存在しているのだ と気持ちが昂る
 
 台風の移動スピードから考えるとそろそろ 台風の目 が通り過ぎるのだろうと推測し 改めて 超大型台風の 静寂の目の中 という 地球規模の人力では想像も出来ない大自然の大きな営みの真っ只中に 今 己れは存在しているのだと確信出来 さらなる高揚とした気分になっている 

 己れの生まれて初めての体験 凶暴な台風の しかしながら静謐な 台風の目の真っただ中 に己れが存在して居るのだ

 
 21時を回っていただろうか 気圧計の針に合わせたスパイ針の位置▲ 想定960hPa に重なっていた気圧計の針がかすかに上昇を始めたことを確認する
 
ついに 台風の目 の空間は通り過ぎたのだ



 22時をとっくにまわっていた

 窓から台風の進路北北東の方向を眺める 雨雲で真黒で何もみえなかった景色に変わって 己の眼は東京タワーの綺麗に輝く照明に吸寄せられていた 超高層ビル群の点滅する赤や黄色の光が浮き出ている綺麗な東京の景色に戻っていたのだ つい数時間前の強烈な風雨の世界を思い出しこの変化が大都会の当たり前の姿なのだろうと 己れはなにかほっとする気持ちになっていた

 そしてその後の3週間もまだ続いている 河川氾濫 家屋倒壊 の大きな悲劇を その時は想像もしなかった己れをふりかえる時 そこに苦しむ人のことを考えると心が痛むのである 



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