住宅建築家である己れの3連休は 建築主Sさんの告別式出席から始まった


 この日に先立つ3日前 夜9時すぎ 一本の電話が入る
建築主Sさんの奥さん からだ

 6年前に完成した賃貸併用住宅 その最上階ワンフロアーが建築主Sさんの住宅である

 「夜分遅く恐縮ですが」との前置きの後沈黙が続き やっと「考えていもいないことが起こりました」との声を聞く  が その後はまた沈黙

 なんとなく気配がおかしいのを感じ 「どうかなさいましたか」と問いかけるがまた沈黙が続く

 己れの作った建物にとんでもない事故が生じたのか 火災でも起こったのかと不安がよぎる

 そして「D(Sさんの御名前)がなくなりました」と告げられる

 己れはしばらくは言葉も無い

 ある住宅建築模型展で己れの設計した賃貸併用住宅模型に出会い コンタクトを取ってこられたのがDさんで それからのお付き合いの始まりである

 額を突き合わせて設計打合せを続けていたいつの日からか 己れも Sさんを Sという苗字ではなく Dさん と名前で呼びかけるようになっていた

 Dさんが完成した建物をどんなに愛しておられたのか を電話で伺い 己れも目頭が熱くなる



 告別式でDさんに静かにお別れをする
 己れの これからの生涯に渡るお付き合いをお願いしたい建築主であった 残念だ

 しんと静まりかえる告別式場の空間に
 大仰に印を結ぶ僧侶の姿 
 呪文としか聞こえない読経の声

 それが催眠術を施したように己れの意識の中に入り込んで いつの間にか己れはDさんの遺影に向かい 現世から去ってゆくDさんに別れを告げていた
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 午後喪服のまま T3世帯住宅工事の現場へ立ち寄る

 土曜日のこの日は 建築現場は休日ではない

 抜けるような明るい青空 真夏のような太陽 重機のエンジン音が響く 泥まみれで地盤の計測をおこなっている技術者達 生気溢れる現場に 己れの意識はいつの間にか現実に戻っている

 生きているということは素晴らしいことだ 張り切って 大切な今日という日 を過ごそう

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 明日の日曜日は己れの本当の休日だ 天気図を見れば秋の晴天 ヨットで一日を楽しもう

 とこの時は思っていた





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